大大阪君似顔の圖(大正後期) 〔九〕

大大阪君似顔の圖(大正後期) 〔九〕
公開:2021/09/09 更新:

昭和5年(1930)に出版された『スポーツと探訪』に収録された『 大大阪君似顔の圖』(著:岡本一平)を翻刻した内容をご紹介します。

『大大阪君似顔の圖』は、あの岡本太郎の父親、岡本一平が大正14年の大大阪発足を記念して書いた、大大阪の街の名所や名物を似顔絵のパーツにして紹介する挿絵付の文章です。

こちらは『大大阪君似顔の圖〔九〕』の内容になります。


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大大阪君似顔の圖(大正後期) はじめに

昭和5年(1930)に出版された『スポーツと探訪』に収録された『 大大阪君似顔の圖』(著:岡本一平)を翻刻した内容をご紹介します。


大大阪君似顔の圖〔九〕

(ほ)大阪の顔の眉(上)
(ほ)大阪の顔の眉(上)

茶の湯にながしめの式かある事

挿絵1
挿絵1

『華やかだね。ずつと提燈がついてる』
S君『ここ踊りや』
『あしべ踊か』
『こいつは阿はうやな。あしべ踊の提燈見せといたら、みな踊はあしべ踊やと思うてくさるここは新地の浪花踊やがな。提燈にへうたんがついとるやらう、新地一名へうたん街や。まだこの外に大阪に踊はぎやうさんある。そないな事いふと人に笑はれまつせ』
『こういふ事は笑はれる方を希望する』
『まあ、入って見い。参考や』
入る。茶席に芝居に出るやうな娘が腰かけて茶を立てて居る。セセション式に肩ひぢ張って茶道具を取扱ひ見て居ても面倒臭い。これが茶の湯の何流とかいふ式ださうな漸く茶が立つと其茶わんをもつて、身體の向きを變へ、傍の横卓の上に置く。その時今まで人形のやうにすまして居た顔にこびを作りぢろりと客をながし目で見る。
『男をながし目で見る茶の湯の式があるのかね』
『藝子庵手くだ宗匠の新式やらう』
その女の立てた茶わんを皆に持つて來るのかと思へばさうではない。屏風の裏からどんな婆あが掻き廻したとも判ら
らぬ茶を澤山少女が運んで來る
『羊茶を掲げて狗肉を賣るとはどうだ』
『そらなんやい』
『羊頭を掲げて狗肉を賣るをもぢつたのだ』
『ちっとももぢれてえへん』
客も腰かけて二列三列に列んで待ってる。藝子はんの立てた茶を貰はうと思って家業をなげ捨てて並んでると思へば浅間しい。客の中に婆さんが混って茶を孫に分けて飲ませてるこれぢや藝子宗匠の方でも不本意だらう。茶を飲み乍ら茶やのおかみにつかまってくどくど勘定の催促をされてる客がある。

茶を運ぶ女が美しく化粧して居る。 ただ首筋に三本、耳の前に一本、細長い三角の形にお白粉をぬり残して居る。其地はだの色が赤黒く見える
『藝子いふものは案外正直なものだね』
『何故や』
『だって自分を賣ものだと思へばこそ化粧したところと正味のきぢとを両方見せ掛けねのないところを買つて貰はうとする鎗形に塗り残したところはきぢの見本だらう』
『あれは頸足を長く見せやうする化粧法や』
『やつぱり手くだか』

踊の楽屋にいもがある事

挿絵2
挿絵2

廊下を通る。ここは造花の櫻の滿開、田舎茶屋がしつらへあり、桑津だんごを賣ってる。ここの茶汲女には豆のやうな少女を使ってる。藝子にもし幼年學校があればこれ等はみなそこの生徒だ。女の小粒はこのだん子やに使い中粒は茶室の茶運びに使ひ手足の関節の自由なものは舞臺上に咽喉に空気の通りよいものは歌ひ手にとても外形では賣り切れぬ藝子の枢密顧問官には三本の絲をひつぱつたさをを擔がせて弾かせる女に廃りのないといふ諺はまことなるかな。其廃りのないやう巧に採配を振るこの社会の大統領みたやうなおやぢに絡介された。紋附に袴をはいてる。案内して樂屋を見せて呉れるさうな眞面目顔になつて男が錢勘定してる帳場の火鉢に孔雀の羽根を半分背負った踊り女が蓮葉に巻煙草を吸つて何かからかつている。そのこつちでは大入袋に小錢を入れてる。化粧室の大廣間には一側に横長い鏡が並び一同に女が化粧してる。女が扨見る人が居ないと安心しさて化け始めようとする時の露骨さを見よその次の部屋の仕上つた女が休息する部屋のテーブルに『さつまいも』が載ってる。ゆげが立つてる。
『ふむ、踊り子がいもを食うわい』
『こりや、おしろいの鉛毒にかからぬ食物やさうな』
『悪かつた、ぢやいひ直さう、踊り子は鉛毒にかからぬといふ理曲の下にいもを食ふわい』
化粧中の女には若いものもあるが三十以上のみ澤山ある。それをよく見覚えて置いてさて、舞臺へはどんなに化けて出るか。その結果を見に客席へつく。

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昭和5年(1930)に出版された『スポーツと探訪』に収録された『 大大阪君似顔の圖』(著:岡本一平)を翻刻した内容をご紹介します。


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