大正14年(1925)に書かれた戦前の釣りに関する本、
『釣の呼吸』(上田尚著)
たまたま手にした本であったが、その内容があまりにも現代の「釣り」の考えに通じるところがあり、夢中に読んだ。
既に出版から90年近く経っており著作権の保護期間も終了していることから、ここに本書の内容を公開することとする。
書名
釣の呼吸
著者
上田尚
出版年
1925(大正14)
私の太郎「釣の研究」は、二度目の誕生日を過ぎて間もなく東京の震災にかかりました。しかし彼は幸福者です。めぐみ豊かなる先生達に祝福せられ、なさけ深い幾多愛釣家諸君の暖い膝に抱上げられ、今日に至るも尚未見の方々から懇望されて居ります。又養家の版元からは是非再び世に立たせたいと幾度も申入れがありました。生みの親として、こんな嬉しいことはありませぬ。
けれども同じく世に立たすならば、もつと力づけてやりたいことが、親としての願ひでありまして、目下教養中であります。
その間に生れたのがこの次郎で、弟だけに粒は少々細かいが、そこに新しい世界を見出し且深く其境地を拓かうとして居る一面、太郎の氣付かないことや言兼ねてる所をも充して、おろかながらも太郎と離れ難い使命を果さうとして居ります。
なほ私が「釣の研究」に申添へた「希望」に封し、各方面より賜はった同情と幾多の研究資料とは、過去に得た何物よりも貴いもので感激の中に四年を経過致しました。中にはそれに私の研究を加へて記述し始めたものもあります。いづれ魚それぞれに、また釣に関した各部門に亘るものを、色々な形式を以て発表し、芳名と共に永く之を記念したいと、業務の傍これに頭して居ります。
近來釣魚趣味の向上展開は実に著しいもので、私の計畫遂行をして一層緊要ならしめて居ります。またの創造的境地は、古楽幾多の詩人創作家が、想を異にし形を変へて戀を描いても、 いづれが戀の極致か分らない如く、無限無邊のもので、微力ながら絶えず何等かの新使命をもたらしたいと力めていますから、此上ながら各方面からの指導助成を仰ぎたく、 次郎の出生に際し切にお願申上げます。
大正十四年三月
神戸熊内の寓居にて
著者
※各ページへリンクしています
『釣の呼吸』